WWW.KICHIJOUJI.JPは、吉祥寺特集の本・雑誌、まち情報、オススメな本・地元作家を紹介するサイトです。
JP

JP(ジェイピィー)です。
宜しくお願いいたします。


 


いまなんつった? 宮藤官九郎/著

2011/02/09


お買い求めはJP屋で 

いまなんつった? 宮藤官九郎/著
出版社名 文藝春秋 出版年月 2010年11月 ISBNコード 978-4-16-373330-2 (4-16-373330-2) 税込価格 1,650円 頁数・縦 397P 19cm

思わず振り向いてしまうような名セリフをエッセイに。宮藤官九郎がTV、舞台、映画、音楽、日常で耳にした名セリフ&迷セリフ111個。
[目次] テレビの「いまなんつった?」;舞台の「いまなんつった?」;映画の「いまなんつった?」;音楽と日常の「いまなんつった?」;かんぱの「いまなんつった?」;特別対談 「宮藤官九郎の書いた好きなセリフBEST3+α」(磯山晶(TBSプロデューサー)×長坂まき子(大人計画プロデューサー))

セリフを書きセリフを覚えセリフを喋って20年。人生の半分をセリフとの格闘に費やして来た宮藤官九郎さんが、思わず「いまなんつった?」と聞き返したくなるような名セリフをエッセイに! 『♪ドラゴン、ドラゴン、清少納言』、『喜劇は、誰が笑うか分かんないからね』、『宮藤くん! 警察!』、『塩がめっちゃかかってておいしいーっ!』などなど、テレビ・舞台・映画・音楽・家庭などで宮藤官九郎が耳にした膨大な言葉の中から選んだ名セリフばかり。いろいろ妄想しながらお読みください。

宮藤 官九郎 (クドウ カンクロウ)
1970年生まれ。宮城県出身。91年より大人計画に参加。「ウーマンリブ」シリーズでは自ら作・演出を手がける。2001年、脚本を手がけた映画『GO』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞など多数の脚本賞を受賞。以後、『舞妓Haaaan!!!』『なくもんか』、ドラマ『流星の絆』『うぬぼれ刑事』など、次々と話題作の脚本を手がける。パルコプロデュース『鈍獣』で第49回岸田國士戯曲賞、映画初監督作品『真夜中の弥次さん喜多さん』で05年度新藤兼人賞金賞を受賞。09年、監督・脚本を担当した映画『少年メリケンサック』も大ヒットを記録した。現在は脚本家、構成作家、俳優、映画監督として活躍。また、パンクコントバンド「グループ魂」のギタリスト“暴動”としても人気を博す(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

はじめに
『バカバカ言うほうが、
バカだぜ』

台詞。科白。セリフ。
かれこれ18年ほどセリフを書いたり喋ったり覚えたり忘れたりしながら生きています。
このコラムでは脚本家であり、監督であり、俳優であり、一児の父でもある宮藤官九郎
が思わず「いまなんつった?」と聞き返したくなるような名台詞を取り上げていきます、
次回から。
じゃあ今回は?私とセリフの出会い篇。言わばエピソード0です。
1991年。20歳だった僕は松尾スズキ氏の主宰する『大人計画』に演出助手として参
加しました。役者として劇団に入る自信も勇気もなく、そのくせ「劇団員てモテないしな
んか辛そう」という先入観だけは持っていた僕は、あくまで「手伝い」という姑息なスタ
ンスで1公演だけ関わったのです。
新人公演の稽古場。そこには台本というものが存在しませんでした。代わりに松尾さん
がその場で思いついたセリフを役者に喋らせながら芝居を作っていました。
例えばこんな感じ。
2人の登場人物が道に迷っています。
「バカこっちだよ」と松尾さんが言う。
「バカこっちだよ」役者Aがマネする。続いて松尾さん、役者Bのほうを向いて「待て
よ!」と言う。マネする役者B。
「待てよ!」
呼び止めたはいいが、この時点で役者Bは次に自分が何を言うか分からない。松尾さん
から次のセリフを与えられるのをジッと待っています。
「そっちは崖だぞ」なのか、はたまた「地雷踏んでるぞ」なのか。頬杖をついて熟考して
いた松尾さんが突然目をカッと見開きこう言いました。
「バカバカ言うほうが、バカだぜ?
思いもしなかったセリフを与えられ、役者Bはその意味を考える余裕もなくただ反射的
に声を出します。
「バカバカ言うほうが、バカだぜ!」
演技ではない、かと言って素でもない、何とも言えない空気に緊張が解け笑いが起こり
ました。
やがて何となくシーンの流れができてくる。僕の役目はそれらをひたすらノートに書き
とめ、家に持ち帰って台本という形にまとめる事でした。
夜、ノートを開き昼間の稽古を思い出しながら原稿用紙にペンを走らせる。当時は手書
きだったんですね。
「バカ、こっちだよ」
「待てよ、バカバカ言うほうが、バカだぜ!」
あれり?これ面白いか?僕はペンを置いて腕組みしてしまった。確かに稽古場では面
白かった。しかし原稿用紙に自分の字で書かれたそのセリフは全然面白くない。うーん。
今日オレはなんであんなに笑ったんだろう。不思議でなりません。
ところが翌日、僕のまとめた台本を役者たちが声に出して読むとこれがやっぱり面白い。
そうか。思わず僕は膝を打ちました。声に出して初めて面白いのが良いセリフなんだな。
それ以来、僕はいまだにセリフを声に出しながら書く癖が抜けません。喫茶店でファミ
レスで電車の中で、小声でブツブツ眩きながらキーボードを打つのは、声に出して面白い
かどうかを確認する為なんです。
18年前に話を戻します。本番を数日後に控えたある日、稽古場へ向かう途中、僕は役者
Bに相談を受けました。
「宮藤くん、『バカバカ言うほうが、バカだぜ』ってセリフさあ、あれ本当に面白い?」
「はい、面白いです」
「そっかー。でも最近ウケないんだよ」
確かにここ数日、あのセリフで笑いが起こらなくなっていた。松尾さんも気になるよう
で、そのセリフを繰り返し稽古していました。
「オレ分かんなくなっちゃったんだよなー」
よほど悩んでいるのか彼はセリフの意味を、そしてみんなが笑わない理由を分析し始め
た。
「もしかして、オレがバカだから笑ってたんじゃないのり?」
「違うと思いますよ」
「だけどオレ、こう見えて現役の大学生じゃん。実は頭いいから笑えないんじゃない?」
「関係ないでしょう」
その日の稽古を見て僕はハッとしました。笑えない原因を僕なりに突き止めたのです。

本書 P.4〜7より引用


 
無断でコピー、転写、リンク等、一切をお断りします。
Copyright (C) 2006 books ruhe. All rights reserved.
<キャラクター・画像 (C)ノリコッチ>